元朝秘史秘史秘史【「元朝秘史秘史」プレー記録集】

前日談とセーブデータ(4)

どうにか邪神デルニソスを数発の攻撃で葬り去ることができました。私が勝手に妄想したゲーム開始前の動きと、今回のプレーのセーブデータを載せました。

■目次

■前日談

山間の開削された道を、込み上げる喜びを抑えながら進む一人の男がいる。

背中の竹籠は、この男の今日の収穫、よく熟れた摘み立ての山ブドウで真っ黒だ。

見た目はそこいらの作男でしかない。頬かむりをし、野良着をまとい、継ぎを当てたズボンから見せる歩様は、磨きこまれた見事な角度のがに股である。

本来、わざわざ獲りに行く必要は無いのだ。彼が住まう大陸随一の商都・アルヴァザールの青果市場の裏手には、肥沃なディナール王国農務省の焼印が捺された空箱がごまんと積まれている。

買う金に困っているのではない。狩猟採集を生業としている訳でもない。

趣味なのだ。体中を汗と泥でまみらせ、毒蛇や山ビルを払い、沢の水に一息つく。そうして甘酸っぱい“宝石”に巡り合えた時、彼の心はこの上ない恍惚感で包まれるのだ。


この男の愉しみはそれで終わらない。帰宅した後、几帳面にも適当な房に分け、何人かに包みを差し出し、満面の笑みでこう言う。

「まあ喰ってくれや」

ある傭兵は押し戴くように受け取る。鉄拳が飛んでくるのを恐れているのだ。

ある賭場の亭主は精一杯の媚態を見せる。上客が離れるのを恐れているのだ。

この男の内縁の妻にして、酒場「湖月亭」を切り盛りする女将・マリアは違う。大きな体に似合わず、いそいそと包装にはげむ彼の姿に母性本能をくすぐられている。

「これが俺の人心掌握術よ」

肩を並べるように出世争いをしてきた、アルヴァザール傭兵隊・第1部隊副長のバスラールに対し、誇ったようにそう言い放つ。何度も聞き飽きたせいか、バスラールは相手にしない。


皆に共通の思いがある。皆、たいして山ブドウが好きではないのだ。断って被る弊害はもとより、配っている本人はいたって真面目なのがたちが悪い。

だが、彼は嫌われているのかと言えばそうではない。本質的に彼をして慕わせるものは、山ブドウ以外の所にある。彼の持って生まれた用兵の巧みさであり、少年のようなその性格である。

何かしら「この男のためなら」と胸に秘めさせるものを持っている。アルヴァザールの英雄と言っていい。ライバルのバスラールですら認めるところだ。


男の名はキュルキム。現在、傭兵隊の第2部隊副長を任されていると言ったとしても、他国者は容易に信じないであろう。

アルヴァザールの主要産業はむろん商業である。ディナール・イルギ・ディルザム・マイザリオンの古風な4者の間を巧みに仲介し、最大の利益を常に手にしてきた。

他の国家からは「金の亡者」と蔑まれる事も少なくない。しかし、それらの国を動かす内政官僚の最大のステイタスこそ、アルヴァザール留学であることは否定できないのだ。


その自由都市アルヴァザール、新進気鋭の評議長・モートランが今熱中しているのが河川交通網の整備である。

陸上輸送に頼っていたこれまでの街道は“両足”として活かし、新たにソロリム・クレトルの両河川を“両腕”として位置付けたモートランの功績は大きい。

歴代評議長にその考えが無かった訳ではない。幅員の増大、水底の浚渫、急流の緩和、積み下ろしの容易な川湊とそれに合わせた街造り、といった“土木的発想”に至るものが居なかっただけだ。

ただ彼の発想力はもとより、それを具現化するための天性の弁論力と実家の財力、いくらかの博打センス、どれを欠いても、すなわちモートラン以外では成功しなかったであろう。


キュルキムが今通っているこの道は、水上交易の隆盛に伴い需要が増した、木材運搬用のものである。

いつもなら作業員で賑わっているであろうこの道も、休息日のために静まり返っている。僅かに鳥のさえずりがこだまするぐらいだ。

キュルキムは、ここに誰も居ない事を前もって調査していた。実際は「湖月亭」で一緒に労働者と飲んでいただけである。

なぜか。今日見つけた山ブドウの穴場を、彼だけが知る秘密基地にしたいがためだ。実際は誰も興味がないのだが。


だが、一人としていないはずの人間が、この場に居た。白墨で伐採日をマーキングされた巨木の陰で、息を殺して様子を窺っていた。

「百姓の癖にいいもん持ってんじゃねえか」

易いと思い、立ち塞ぐなり言い放った。

“いいもん”とは山ブドウではない。キュルキムが腰に帯びている、金細工の鞘のナイフの事だ。見た目の豪華さが眼を引くが、イルギの名工の作で恐ろしい切れ味を誇る。

モートランの評議長就任時に下賜されたものだ。本来は箱に入れてしまっておくべき物だが、あまりにも使い勝手がいいので山歩きに持ち歩いている。


「ぷっ」

キュルキムはたまらず噴き出した。

「学校の宿題かよ」

口調に似合わぬ幼い顔立ち。肩まである背負った長剣。賊はほんの子供であった。


「黙れ」

少年は飛び上がった。空中で抜刀。剣の重みを利用し振り下ろす。

「んなもん振り回したら、怪我するぞ。山ブドウでも喰うか?」

避けつつ応える。キュルキムは面白くなった。ちょっと遊んでやろうと、山ブドウの籠を脇に置いた。

面白くないのはこの少年盗賊だ。山ブドウが要らないのはともかく、百姓姿の目の前の獲物が、薄ら笑いを浮かべながら応戦の構えを見せたからだ。

「怪我したくなかったら、それを置いていけ」

「取れるもんなら取ってみろ、坊主」


突き。かわす。突き。身体をひねる。袈裟。後ろに跳躍。

「筋は悪くねえな。習った覚えがあるな?」

「黙ってろ、金目のもん渡せばいいんだ」

踏み込んで薙ぎ。退く。逆袈裟。のけぞる。振り下ろし、袈裟。斜め前に跳ぶ。

「だが思い切りが足らん」

「うるさい」

子供の剣だから避けきれているのではない。正に「思い切りが足らん」の言葉通りだった。浅手で済まそうとしているのだ。戦場の剣どころか、賊の剣ですらない。道場の剣だ。


「おめえ、人切った事ねえだろ」

少年の顔に動揺の色が走る。それを隠せず、こう返した。

「きっ、昨日は熊を殺した。きょ、今日は人を殺す。生意気な百姓をだ!」

勇猛な戦士様に出会えて光栄なこって。言いながらキュルキムは、初めてナイフを抜いた。

「尺が違いすぎるだろうが」

その嘲りには構わず、この日初めて見せる指揮官の顔でこう言った。

「戦いの鉄則を教えてやろう。外見で判断するな。百姓だろうが、ナイフだろうが」

キュルキムは思い切り後ろに跳び、着地寸前で裂帛の気合いと共に業物を振り下ろした。


一瞬の出来事に、少年はキュルキムを見失った。着地の勢いで舞い上がる砂塵。こけおどしして逃げ帰ったのかと思った。

違った。砂煙を切り裂く一陣の刃が見えた。ソニックブレード。

どうにかして身体が反応し、剣で受けることが出来た。だが当たり所が悪い。剣の先っぽに当たったため、衝撃が電流のように骨を伝わる。思わず剣を離してしまった。

「灸を据えてやろう」

後ろから声が上がった。むんずと伸びる太い腕。

「俺も力自慢だが、おめえが殺ったっていう、昨日の熊さんには負けちまうかもな」

これが大人だ。そう誇示するかのような、片腕でのネック・ハンギング・ツリー。

「明日の朝は、牢屋でお目覚めだ。殺しやしねえ」

必死に足をバタつかせる少年。楽になろうとしてか、自らのベルトに手をかける。

キュルキムはそれには気づかず、少年に不似合いな傍らの剣を見て問う。

「それにしてもずいぶん立派なロング・ソードじゃねえか。どこで盗んだ」

「……親父の……親父だった男の……」

「家出坊主か」

境遇はわからんでもない。経験はキュルキムにもある。帰ったら、話でも聞いてやるかと思ったその刹那、腕に柔らかく、生暖かい感触があった。


少年がズボンのベルトを外し終え、下着を下ろし、その幼い性器を露出させていた。

この時代、この世界の中において、男色・衆道の気配があったかは知る由もない。ここではキュルキムにはその気はなかったという事にしたい。

「これはまたご立派なロング・ソード。ツルツルピカピカで、鞘までついちゃって」

だがこうして命乞いしようなんざ、俺は感心しねえぜ、そう継ごうとした瞬間、キュルキムは思わず声を上げた。

放尿。

首を締めた事での失禁ではない。明確な意思を持っての放尿。


「何しやがる!バッチイ!」

首から手を離す。少年の咳が山間に響く。

「今抵抗した所で、力の差は判ってるだろうが」

もう容赦はせん、との最後通牒の意味を込めて言い、ナイフを構えた。

が、息を整えた少年はいたって本気だった。それどころか冷静に、一言一句力を込めて次の言葉を念じた。

「水の精霊神フィーネよ、我に力を与えたまえ」

魔法。この世界において、火・水・地・風・聖(邪)・光(闇)の6(8)つの能力は生来の物であり、後天的に自得するのは不可能である。

その力でもって、戦争において多くの人命を失うほどの威力を発揮するとなれば、相当な肉体的・精神的修養を経なければならない。


少年は水の力を有する。高度な水の魔術師であれば、大気中の水蒸気を凝結させて圧殺したり、水流を思いのままに操る事さえ可能になるだろう。

ただ、今の少年はそこまでには及ばない。だが少量の液体を固める事ぐらいは可能だ。

少年は、キュルキムの濡れた右足が地面と接する部分に力を一点集中させた。


「なんでえ、こんなもん」

キュルキムはありったけの力を込めたが、顔が赤くなるばかりであった。

ただの氷ではない。精霊の力を借りた、魔法の賜物なのだ。


「随分ヘロヘロじゃねえか。やるなら楽にやってくれよ」

少年はロング・ソードを杖にどうにか立ち上がった。魔法を使いこなすだけの、精神力の器がまだ十分ではない。

「この言葉返すぜ。外見で判断するな。たとえガキだろうが」

「まだ減らず口叩く力はあんじゃねえか」

「冥土の土産に覚えておけ。俺が熊殺しのマレバージ様だ」


「それがおめえの名か。いい名だ」

キュルキムは観念したかのように頭を下げる。

「だがなあマレバージ、一つ重要な事を忘れてねえか」

「今更何だ」

「熊はよお、ブーツ履いてねえんだよなあ」


バツン、バツン、バツン

この音を最後に、マレバージの今日一日の記憶は途切れるのであった。

「……アンタ、アンタ、気づいたよ!」

「……よお、マレバージ。気分はどうだ?」

2人の男女の顔。枕、ベッド、洗剤の微かな残り香のするシーツ。

「もう、心配させて。このままずっと起きないかと思ったわ」

マリアが身体を寄せる。顔に、彼のこれまでの人生の中で、最も柔らかい感触の物が押し当てられる。息苦しく、甘い。

「ロング・ソードも元気で何より」

少年の顔は、山ブドウの汁をぶちまけたかと思えるほど真っ赤に染まった。


「俺は……」

「まあ、今日はゆっくり静養しとけ」

「時間はナンボでもあるのよ」

「……」

「それにしても、アンタ、いいものも獲ってこれるんじゃない」

「獲った訳じゃない。それに何だ、いいもの“も”の“も”ってのは」

「山ブドウよりも、って事よ」

「“よりも”……!」


盗賊少年、いや、熊殺しの、いや、小便剣のマレバージは、その後アルヴァザール傭兵部隊の一員として帳面に名を連ねる事になる。

彼はこの新天地にて、身元引受人であり上司でもあるキュルキムと共に累進を重ね、アルヴァザールの栄光と挫折の歴史に名を残すのであるが、それはまた別のお話。


※登場する国家やキャラクターのバック・グラウンド、魔法の概念、男色性行については、コーエー社の考えと異なる恐れがあります。

■セーブデータ

デルニソス撃破直前のセーブデータをアップしておきます。(プリムデルらと)マレバージのユニットは、グリムスとドレンタイトの間にいます。「未行動ユニット」のアイコンを選択すればフォーカスがいきます。

内容

使用にあたって

上書き予防のため、最後の方の18番目のセーブファイルを用意しました。

"Dinar18.rb2"ファイルをそのまま、「Program Files」>「KOEI」>「Royal Blood II」フォルダ内に入れてください。

もし18スロットまで埋まっている場合は、あらかじめ、あなたのセーブデータのバックアップを取った上で行ってください。

注意・免責事項

当セーブデータの再配布は認めません。

当セーブデータの利用によって何らかの障害が生じたとしても、その原因が当セーブデータのバグや意図された動作によるものであるか否かを問わず、私、ひしひしはその責任を負いません。

利用者の自己責任において使用して下さい。

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元朝秘史秘史秘史デルニソスを一撃で倒せない前日談とセーブデータ(4)
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